アプロプリエーション・アートとは|スターテヴァントとビドロの完璧な借用

アプロプリエーション・アートとは|スターテヴァントとビドロの完璧な借用

目次

一九六七年、マンハッタンのイースト・ナインス・ストリート六二三番地。間口の狭い店の看板には「The Store of Claes Oldenburg」とある。棚に並ぶのはハンバーガー、パイ、ドレス、シャツ。石膏と布で粗く作られた日用品が、商品として値札とともに置かれている。

店主はクラース・オルデンバーグではない。エレイン・スターテヴァント。

オルデンバーグのディーラーだったレオ・キャステリは、この店の作品を買い取った。複数の証言によれば、飾るためでも売るためでもなく、壊すためだったという。

スターテヴァントは贋作を作ったのではない。作品はすべて自分の名前で発表していた。それでも画商は壊そうとし、作家本人は取り乱した。完璧に近いコピーが隣に並んだとき、「オリジナル」と呼ばれてきたものは何を根拠に価値を持つのか——この一点だけを、スターテヴァントと、十六年後に同じ問いをピカソの画面で反復したマイク・ビドロは狙い続けた。半世紀後、同じ問いは学習データという新しい名前で法廷に移る。

東九番街、もう一つのストア

オルデンバーグが「The Store」を開いたのは一九六一年、同じイースト・ヴィレッジでのことだった。日用品を石膏や布で粗削りに再現し、商品として陳列する。ポップ・アートの初期を代表するインスタレーションである。スターテヴァントはそれを十四点ほど作り直して並べた。色は微妙にずれ、サイズは少し違い、原作になかったものが混じり、あるはずのものが欠けていた。

二年前、彼女はすでに同じことをウォーホルにしていた。一九六五年、バイアンチーニ・ギャラリーでの個展に並べた「Warhol Flowers」は、ウォーホル本人がファクトリーから持ち出して貸した版で刷られている。ウォーホルは怒らなかった。以後、自身の制作方法を問われるたびに「分からない。エレインに聞いてくれ」と答えるようになる。この一件については、リキテンシュタインのベンデイ・ドットをめぐる記事で借用の系譜の起点として書いた。

彼女は自分の行為を模倣とも盗作とも呼ばなかった。「リピティション(反復)」。同じ題材、同じ技法、同じスクリーン。それでも生まれてくる絵は微妙にずれる。色の濃淡、刷りの強さ、線のかすれ。本人の説明はこうだ。「主に記憶から、同じ技法で、同じ間違いをして、同じ場所に着地する」。

ある批評家は、彼女の個展をこう評した。「自分以外のすべてを含む一人展」。

オルデンバーグ本人は、キャステリよりも直接的に反応した。スターテヴァントは後年こう振り返っている。「クラースは取り乱した。それまで私の仕事を支持してくれていたのに。私は言ったの。『そんなことダメよクラース。私を応援しておいて、私があなたの店をやったら反対するなんて』」。

時代の風はスターテヴァントに冷たかった。一九七〇年代半ばから彼女は約十年間、作品の発表を止める。

ピカソを描き直す男

スターテヴァントが沈黙していた頃、ニューヨークの別のスタジオで、若い画家がピカソ「アヴィニョンの娘たち」を一から描き直していた。

一九八三年、マイク・ビドロ。場所はクイーンズの旧公立学校、P.S.1のスタジオ。原作は一九〇七年の油彩、二四四×二三四センチの大画面、五人の娼婦を描いた二十世紀絵画の出発点とされる作品である。MoMAの目玉所蔵作品で、誰もが知る顔。

ビドロはそれを実物大で再制作した。スタイルも構図も筆致も、可能な限り忠実に。この「アヴィニョンの娘たち」を起点に、彼は「NOT」シリーズを始めることになる。

「NOT Picasso」「NOT Pollock」「NOT Warhol」「NOT Duchamp」。タイトルに付く「NOT」は奇妙にふるまう。「これはピカソではない」と否定しながら、絵そのものは限りなくピカソに近い。フランスの批評家オリヴィエ・ザムは、この「NOT」は同時に一致と差異の両方を指し示すと書いた。同じ絵で、同じ絵でない。

ビドロの再制作は徹底していた。一九八四年、彼は自宅の屋根裏スタジオを「NOT Andy Warhol’s Factory」として、ある日の午後だけ再現した。一九八五年にはロサンゼルスのガゴシアン・ギャラリーで「ゲルニカ」を実物大で複製した上、同年、イヴ・クラインの「青の時代の人体測定」——裸の女性の身体に絵具を塗り、紙に押しつけて型を取るパフォーマンス——をニューヨーク、スウェーデン、東京、シアトルで四度再演した。クライン本人と同じくタキシードに白手袋姿で。

ポロックを再制作するため、ビドロはペギー・グッゲンハイムの暖炉にポロックが小便をしたという有名な事件まで再演している。絵だけでなく、芸術家の振る舞いそのものまでが「借用」の対象になった。

「Pictures世代」と理論の到着

一九七七年、ニューヨークのアーティスツ・スペースで「Pictures」という小さな展覧会が開かれた。キュレーターはダグラス・クリンプ。シェリー・レヴィン、ロバート・ロンゴ、シンディ・シャーマンら五人の若手アーティストが参加した。後に「Pictures Generation(ピクチャーズ世代)」と呼ばれる流れの起点である。

この世代がアプロプリエーションを理論として武装させた。背後にあったのは、五月革命後のフランス思想だ。ロラン・バルトの「作者の死」(一九六七年)、ジャン・ボードリヤールの『シミュラークルとシミュレーション』(一九八一年)、ミシェル・フーコー、ジル・ドゥルーズらの仕事。

ボードリヤールはこう書いた。「シミュレーションはもはや、領土や指示対象、実体のシミュレーションではない。それはモデルによる、起源も現実もない実体——ハイパーリアル——の生成である」。

レヴィンの「After Walker Evans」が一九八一年にメトロ・ピクチャーズ・ギャラリーで発表されたのは、この理論的な季節のただなかだった。彼女は一九三六年にウォーカー・エヴァンスがFSA(農業安全保障局)のために撮影した、大恐慌時代のアラバマの小作農家族の写真を、展覧会カタログから再撮影し、自作として発表した。エヴァンスの写真——アリー・メイ・バロウズという女性の有名な肖像を含む——はモダニズム写真の聖典だった。レヴィンはそれを、撮影せずに「撮影」し直した。

メトロポリタン美術館の解説は冷静にこう書いている。「『After Walker Evans』はポストモダニズムの里程標となり、家父長制的権威に対するフェミニズム的乗っ取りとも、芸術の商品化に対する批判とも、モダニズムの終焉への挽歌とも、賞賛と非難の両極から論じられた」。

一九八六年、ソナベンド・ギャラリーで「Neo-Geo」展が開かれる。ジェフ・クーンズ、ピーター・ハレー、アシュリー・ビカートン、マイヤー・ヴァイズマンの「Hot Four」。ハレーはとりわけボードリヤールに傾倒した。批評家はこの動きを「シミュレーショニズム」とも呼んだ。

スターテヴァントとビドロは、ようやく理論によって追いつかれた。一九八六年、スターテヴァントはホワイト・コラムズでの展覧会で復活する。

ベンヤミンの予言、ウォーホルの矛盾

複製の問題は二十世紀美術が出発した時点で既にそこにあった。ヴァルター・ベンヤミンが一九三五年に書いた「複製技術時代の芸術作品」は、写真と映画によって芸術作品の「アウラ」——本物だけがもつ唯一性、礼拝的な価値——が失われると論じた。

ところがアートマーケットは、複製可能性を内包したはずのウォーホルのシルクスクリーンに、いまも何百万ドルもの値段をつけている。「真正の」ウォーホル、「真正の」キャンベルスープ缶。複製技術で作られた「オリジナル」と、ほぼ同じ技法で作られた「コピー」のあいだに、価格にして百倍以上の差がある。

スターテヴァントが指していたのは、この矛盾そのものだった。

ウォーホル自身、自作の写真の出典で訴えられている。一九六四年の「フラワーズ」のもとになったハイビスカスの写真を撮ったのは『モダン・フォトグラフィ』誌のパトリシア・コールフィールドという写真家で、一九六六年に彼女はウォーホルを著作権侵害で告訴した。和解金とロイヤリティ、将来の作品の制限が課された。

スターテヴァント本人が二〇一二年、モデルナ美術館での回顧展「Image over Image」で語っている。「現在説得力があるのは、私たちの遍在するサイバネティックなモードだ。著作権を神話に放り込み、起源をロマンチックな観念にし、創造性を自己の外側に押し出す。リメイク、再利用、再構築、再結合——それが進む道だ」。

二〇一一年、スターテヴァントはヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞功労賞を受賞した。二〇一四年五月七日、パリで八十九歳の生涯を閉じる。同年、MoMAで回顧展「Sturtevant: Double Trouble」が開かれた。

生成AIと「学習データの借用」

二〇二三年一月十三日、サンフランシスコの連邦地裁に集団訴訟が提起された。原告は漫画家のサラ・アンダーセン、ケリー・マッカーナン、カーラ・オルティス。被告はStability AI、Midjourney、DeviantArt(後にRunwayも追加された)。

争点は、これらの画像生成サービスが訓練に使ったLAIONデータセット——インターネットから収集した五十億枚の画像——のなかに、原告たちの著作物が許可なく含まれていたかどうか。さらに、ユーザーが特定のアーティストの「スタイルで」画像を生成できる機能が、その作家の権利を侵害していないかどうか。

二〇二四年八月、ウィリアム・オリック判事は被告らの棄却申立てを退け、訴訟の中核部分を継続させる判断を下した。判事は、Stable Diffusionが「著作権で保護された作品の上に相当程度構築されている」可能性があり、「侵害を促進するように設計されていた」可能性があると述べた。

Getty Imagesも別個にStability AIを訴えている。一二〇〇万枚を超えるGetty画像が無断で訓練に使われたという主張だ。二〇二五年十一月十一日、ミュンヘン地裁はドイツの音楽著作権団体GEMAの訴えを認め、OpenAIが歌詞をChatGPTの訓練に使うにはライセンスが必要だと判決した。同年九月にはAnthropic社が著作者訴訟で約十五億ドル(一作品あたり約三〇〇〇ドル)の和解金を支払うと発表した。米国著作権訴訟史上最大の和解額だった。

法廷の議論は、半世紀前にレオ・キャステリがスターテヴァントの作品を買い取って破壊しようとしたときの怒りと、構造的には似ている。借用は許されるのか。スタイルや見た目を真似することは、どこまでが「学び」で、どこからが「盗み」か。創造とは何で、それは誰のものか。

違いがあるとすれば、スターテヴァントもビドロも、一人で、自分の手で、何ヶ月もかけてウォーホルやピカソを再制作したという点だろう。生成AIは数億の作品を瞬時に咀嚼し、テキストで指示すれば数秒で「○○風の絵」を吐き出す。スケールと速度が違う。

完璧な借用はオリジナルを超えるか

問いは古い。

紀元前のローマ人は、ギリシャ彫刻を大量に複製した。ラファエロは弟子たちに自作を量産させた。十九世紀の版画家は、ターナーの油彩を版に起こして売った。模倣と借用は、芸術の本質的な営みだった。

近代が発明したのは「作者」と「オリジナル」という概念のほうかもしれない。ロマン主義の天才像、モダニズムの形式実験。「初めて」「唯一の」「真正の」がつねに価値の源泉だった。

スターテヴァントとビドロは、その近代的な前提に手を入れた。完璧に近いコピーを作ることで、オリジナルとは何かを問い直した。彼らの「借用」が示したのは、コピーは劣化したオリジナルではないという事実だった。それは別の作品で、別の問いを開く。

スターテヴァントのウォーホル「フラワーズ」を見ると、ウォーホル本人の作品よりも、ウォーホルがどう作られているかが見える。ビドロの「アヴィニョンの娘たち」を見ると、ピカソというブランドがどう機能しているかが見える。ダブルの視線が観客に発生する。彼らはオリジナルを超えなかったが、オリジナルそのものの輪郭を引き直した。

AI画像生成が二〇二〇年代に巻き起こした論争は、表面上は技術と法律の話に見える。けれど根は深い。誰が「作った」とみなされるか。何が「学習」で何が「複製」か。スタイルは所有できるのか。

スターテヴァントは生前、こう語っていた。「私の作品の残酷な真実は、それがコピーではないということだ。作品の押しと押し合いは、イメージから概念への跳躍だ」。

押し合いはまだ続いている。法廷でも、スタジオでも、誰かのプロンプトの欄でも。

Q&A

スターテヴァントとビドロのアプロプリエーションは、何が違うのですか?
スターテヴァントは「リピティション(反復)」と呼び、原作とほぼ同じ技法で再制作しながらも記憶に基づいた微妙な「ずれ」を意図的に残しました。ビドロは「NOT(○○ではない)」とタイトルに付けて、徹底的に忠実な模倣でありながら否定形で名乗ります。前者は「差異の中の同一性」、後者は「肯定の中の否定」を戦略にした、と言えます。
アプロプリエーション・アートは著作権法的にどう扱われてきましたか?
グレーゾーンに留まり続けてきました。リチャード・プリンス対パトリック・カリウのケース(2008-2014年)では二審が大半について「変容的利用」を認めましたが、和解で決着しています。シェリー・レヴィンの「After Walker Evans」は皮肉なことに、エヴァンスの権利継承者が後にレヴィン作品の流通を制限する動きを見せました。法廷は一貫した基準を出していません。
ボードリヤールの「シミュラークル」とは何ですか?
フランスの哲学者ジャン・ボードリヤールが『シミュラークルとシミュレーション』(1981年)で論じた概念で、もはやオリジナルを持たず、コピーのコピーが現実そのものを構成する状態を指します。「ハイパーリアル」とも呼ばれ、現代社会では「本物」と「模倣」の区別自体が機能しなくなっている、というのが彼の主張です。
生成AIによる画像と、スターテヴァントやビドロの借用は本質的に同じものですか?
結論を出すのは早すぎますが、決定的な違いはあります。借用アーティストたちは特定の一作品(またはシリーズ)を選び、「これを再制作する意味」を引き受けて長時間労働しました。生成AIは数十億の画像を不特定多数に学習させ、誰が学習元かを示さずに新しい画像を出力します。問題の構造は似ていますが、規模、速度、責任の所在が異なります。
現代でアプロプリエーションを継承しているアーティストはいますか?
リチャード・プリンス、ジェフ・クーンズに加え、近年ではメアリー・ベス・エデルソン、KAWS、コーリー・アーカンジェルらが挙げられます。日本では村上隆の「DOB君」などがディズニーやアニメ文化からの借用を組織的に行ってきました。AI時代に入って、トレヴァー・パグレンやキャロリン・コルブのようにAIシステム自体を批評対象にする作家も登場しています。

基本データ

人物①
エレイン・スターテヴァント(Elaine Sturtevant)
本名
Elaine Frances Horan
生没年
1924年8月23日 – 2014年5月7日
出身
オハイオ州レイクウッド(米国)
活動拠点
ニューヨーク、後にパリ
代表作
Warhol Flowers(1965)、The Store of Claes Oldenburg(1967)
受賞
ヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞功労賞(2011年)
主要回顧展
Sturtevant: Double Trouble(MoMA、2014-2015年)
人物②
マイク・ビドロ(Mike Bidlo)
生年
1953年
出身
アメリカ合衆国
活動拠点
ニューヨーク
代表作
NOT Picasso(1983年「アヴィニョンの娘たち」より)、NOT Andy Warhol’s Factory(1984)、NOT Klein(1985-1989)
スタイル
「NOT」シリーズによるアプロプリエーション
理論的背景
アプロプリエーション・アート
中心概念
作者性・オリジナリティ・真正性への問い直し
理論的源泉
ロラン・バルト「作者の死」(1967)、ジャン・ボードリヤール『シミュラークルとシミュレーション』(1981)
関連運動
Pictures Generation(1977年〜)、Simulationism / Neo-Geo(1986年〜)

参考文献

Elaine Sturtevant – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Elaine_Sturtevant
Mike Bidlo – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Mike_Bidlo
Sherrie Levine, After Walker Evans, 1981 – SFMOMA
https://www.sfmoma.org/artwork/91.68/
Sherrie Levine | After Walker Evans: 4 | Whitney Museum
https://whitney.org/collection/works/10247
Sturtevant: Dialectic of Distance | Thaddaeus Ropac
https://ropac.net/news/960-sturtevant-dialectic-of-distance/
Sturtevant: Repeat Offender | W Magazine
https://www.wmagazine.com/story/sturtevant-moma-retrospective
What Was the Pictures Generation? | ARTnews
https://www.artnews.com/list/art-news/artists/pictures-generation-what-was-why-so-important-1234714566/
Andersen v. Stability AI: The Landmark Case | NYU Journal of Intellectual Property
https://jipel.law.nyu.edu/andersen-v-stability-ai-the-landmark-case-unpacking-the-copyright-risks-of-ai-image-generators/
Anthropic reaches $1.5 Billion settlement with authors in landmark copyright case | Fortune
https://fortune.com/2025/09/05/anthropic-reaches-1-5-billion-settlement-with-authors-in-landmark-copyright-case/
Neo-geo | Tate
https://www.tate.org.uk/art/art-terms/n/neo-geo

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