マッカロー効果とは|数ヶ月消えない色の残像、60年未解決の脳の謎

マッカロー効果とは|数ヶ月消えない色の残像、60年未解決の脳の謎

目次

「この画像は見ないほうがいい。数ヶ月、ものの見え方が変わる」。そんな警告を添えて、一枚の縞模様がときどきSNSに流れてきます。赤と緑のチカチカした格子。警告を無視して数分眺めた人が、数日後、白いノートやスプレッドシートの罫線がうっすらピンクや緑に染まって見えることに気づく。

気味が悪いのは、これが本当に起きるからです。

ただの目の錯覚なら、ネタとして消費されて終わります。これは違う。研究者が「そもそも錯覚と呼んでいいのか」とためらう、数少ない現象。1965年の発見から60年、なぜ起きるのかは決着していません。名を、マッカロー効果といいます。

色が、線の向きに張りつく

やり方は単純です。赤地に縦縞、緑地に横縞——この二枚を数分、交互に見つめる。それだけ。

そのあと、ただの白黒の格子を見ると、縦縞がうっすら緑がかり、横縞がうっすらピンクに見えます。色は格子の「向き」に結びついていて、紙を90度回すと、さっき緑だった縞がピンクに変わる。残像が、線の角度に張りついている。

小学校でやった実験を思い出すかもしれません。赤い丸を見つめてから白い壁に目を移すと、青緑の丸が浮かぶ、あの補色残像。あれは数秒で消えます。見た場所に張りつき、どちらの目でも見える。

マッカロー効果は、その反対を行きます。場所ではなく向きに張りつく。たいていは誘導した側の目でしか出ず、片目で縞を見ても、もう片方の目にはほとんど移りません。そして消えない。むしろ翌日のほうが鮮やかに出ることさえある。色つきの縞を見終えた直後ではなく、一晩眠ったあとに、罫線がいちばん濃く染まっている。

この「向きに結びつく(contingent)」性質が、のちの大論争の火種になります。

1965年、オーバリンの教室で

最初に気づいたのは、ひとりの心理学者でした。セレステ・マッカロー。1926年生まれ、オハイオ州のオーバリン大学で、心理学科に女性として初めて常勤で迎えられた研究者です。

きっかけは錯視ではありませんでした。1962年からの最初のサバティカル(研究休暇)で、彼女はカナダに渡り、二色に染めた眼鏡をかけ続けると世界の見え方がどう変わるかを調べていた。その順応実験の奇妙な副産物として、この現象が顔を出します。

オーバリンに戻った彼女は、授業で学生を実験台にします。オレンジ地の縦縞と青地の横縞を交互に見せ、そのあとに白黒の格子を見せる。学生たちは口々に、縞が色づいて見えると報告した。いまネットで出回る赤と緑の組み合わせは、より強く効くために後から定番になった版で、マッカロー自身が使ったのはオレンジと青でした。

1965年、彼女はこの結果を科学誌『サイエンス』に、わずか2ページの論文として発表します。

タイトルが、ただ者ではありません。「ヒト視覚系におけるエッジ検出器の色順応」。エッジ検出器——線や輪郭の「向き」だけに選択的に反応する神経細胞。この概念は当時、生まれたてでした。デイヴィッド・ヒューベルとトーステン・ウィーセルが、麻酔をかけたネコの脳に微小電極を刺し、視覚野の細胞が特定の角度の線にだけ強く反応することを突き止めたのが1959年。二人はこの一連の仕事で、のちの1981年にノーベル生理学・医学賞を受けます。

マッカローは、教室で起きた奇妙な現象を、できたての脳科学にいきなり接続してみせた。色が線の向きに張りつくのなら、向きを検出する細胞そのものが色に順応しているのではないか——。優雅な仮説でした。ただ、それで話は終わらなかった。

網膜では、説明がつかない

マッカロー効果が普通の残像と決定的に違うのは、どこで起きているか、です。

手がかりは揃っていました。ひとつ、色が線の向きに依存する。網膜レベルの単純な疲労では、こうはならない。ふたつ、片目で誘導しても、もう片方の目にはほとんど伝わらない。両目の情報が統合される前——つまり視覚処理のかなり手前、おそらく一次視覚野(V1)の、片目ごとの経路で起きている。みっつ、眼球を動かしても、色は景色に張りつかない。

目玉そのものではなく、その奥の何かが反応している。そこまでは、多くの研究者の見解が一致していました。

問題は、その「何か」が、どうにも腑に落ちない振る舞いを見せることでした。

テストするほど、消えていく

1975年、ケンタッキー州ルイビル大学のポール・ジョーンズとデニス・ホールディングが、ひとつの疑いを検証します。マッカロー効果が長持ちするのは、本当に効果が長持ちしているからなのか。それとも、毎回テストして確かめる行為そのものが、効果を削っているのではないか。

二人は96人の学生を集め、15分間、マゼンタと緑の格子で誘導をかけました。そして二群に分けます。片方は、誘導の直後・8時間後・24時間後・56時間後・120時間後と、繰り返しテストする。もう片方は、それぞれ一度しかテストしない。

結果は、くっきり分かれました。繰り返し測ったグループでは、効果は直線的に弱まり、120時間(5日)でゼロになった。一度しか測らなかったグループは、120時間たってもほとんど衰えていなかった。

確かめれば確かめるほど、消える。

第二の実験で、彼らはさらに間隔を空けます。一度きり、248時間後・504時間後・1,016時間後・そして2,040時間後にテストする。2,040時間——およそ85日、3ヶ月近く。学期の区切りがそれ以上の延長を許さなかった、実験の上限でした。

その3ヶ月近くたった時点でも、効果は当初の半分以上の強さで残っていました。

厄介な数字です。神経細胞の「疲労」が3ヶ月続くとは考えにくい。まして、その疲労が縞模様を見ることで早く回復する——確かめるほど消える——という説明は、生理学的にどうにも苦しい。ジョーンズとホールディングは、マッカロー自身のエッジ検出器疲労説ではこの持続を説明できない、と結論しました。

代わりに彼らが持ち出したのが、連合学習という枠組みです。線の向きと色が、繰り返し一緒に提示されることで結びつく。パブロフの犬がベルと食事を結びつけたように。そしてテストのたびに向きだけを「色なし」で見せられることが、その結びつきをほどく消去試行になっているのではないか——。

60年たっても、答えが出ない

ここから論争は、二つの陣営に割れたまま現在に至ります。

一方は、低次の感覚順応だとする立場。マッカロー効果が片目性で、線の向きに厳密に依存し、網膜上の位置に張りつくことは、視覚野のごく早い段階——V1の神経細胞の振る舞いとよく合います。脳が、色と向きの一貫した組み合わせを「眼の光学系の欠陥」と見なして打ち消そうとしている、という機能的な仮説もある。水晶体というレンズは、色によってわずかにピントがずれます。特定の向きの線がいつも特定の色を帯びて見えるなら、それは目のレンズの歪みかもしれない。脳がそれを補正しようと神経の感度を調整した結果が、この後効果だ——という読みです。

もう一方は、これは学習・記憶の一種だとする立場。3ヶ月続く持続、翌日に強まる定着、テストで消える消去。どれも、単なる疲労よりは、何かを覚える過程に似ています。

両立しないように見えて、証拠はどちらにもある。そこが厄介です。記憶や学習と聞けば、脳の高次の領域を思い浮かべます。ところがマッカロー効果は、片目でしか出ないほど入り口に近い場所に座っている。記憶のように振る舞うのに、住所は視覚処理のいちばん手前。この「早すぎる場所で、記憶のように振る舞う」ねじれこそ、60年経っても解けない理由の芯にあります。

研究は今も続いています。2021年、ミネソタ大学のチームは、ヘッドマウントディスプレイで現実の映像を向きごとに色分けして見せ続ける「マッカロー・ワールド」という手法を編み出しました。その世界で2時間過ごすと、従来の20分の誘導よりはるかに強い効果が出る。発生部位の特定も進み、舞台は視覚処理のごく初期へと絞り込まれてきた。それでも、なぜ消えないのかという肝心の問いに、決定的な答えはまだありません。

「見る」とは、書き換えられること

マッカロー効果が突きつけるのは、ひとつの居心地の悪い事実です。私たちは、世界をそのまま受け取ってはいない。

色は、外の世界に貼られた性質ではありません。脳がつくり出している。そして脳は、どの色がどの形と連れ立って現れるかについて、絶えずルールを書き換えている。たった数分、不自然な組み合わせ——赤い縦縞、緑の横縞——を見せられただけで、そのルールが更新され、数ヶ月にわたって白い紙が色づいて見える。色を扱うデザイナーには、少し背筋の寒くなる話かもしれません。目の前の色は、世界の事実ではなく、脳がいま採用している仮説にすぎない。しかもその仮説は、こちらの同意なしに上書きされる。

セレステ・マッカローは、自分の名前のついた謎が大論争を呼ぶのを、少し離れた場所から眺めていました。1970年、彼女はオーバリン大学を辞め、娘と息子を育てるために研究を離れます。16年後の1986年、彼女はふたたび視覚研究に戻ります。今度の相手は、意外にも空軍機のコックピットでした。カラーディスプレイで色をどう見せるか、暗視ゴーグルごしの薄明かりで何が見えるか。晩年の彼女は、人間の目が極限でどう振る舞うかを、実用の現場で調べ続けます。2023年1月、96歳で世を去りました。

ひとつの錯視に名を残した心理学者は、その謎を開けたまま去っていった。赤い縦縞と緑の横縞を、もし数分見つめたなら——次にまっさらな白い紙を安心して見られるのが、いつになるか。それだけは、少し考えてからのほうがいいかもしれません。

基本データ

現象名
マッカロー効果(McCollough effect)
分類
随伴性残効(contingent aftereffect)/向きに依存する色の後効果
発見年
1965年
発見者
セレステ・マッカロー(Celeste McCollough, 1926–2023)
発見時の所属
オーバリン大学(米国オハイオ州)
初出論文
“Color adaptation of edge detectors in the human visual system”, Science, 149, 1115–1116(1965)
持続期間
数日〜数ヶ月。最長級の報告で約85日(2,040時間)後も当初の半分以上の強度(Jones & Holding 1975)。ただし反復テストで急速に減衰する
推定発生部位
一次視覚野(V1)付近の片目性経路とする説が有力(決着していない)
主な対立仮説
低次の感覚順応説/連合学習(古典的条件づけ)説

Q&A

マッカロー効果は目に悪いのですか?
視力を恒久的に損なうという報告は知られていません。ただし効果は数日から数ヶ月続き、翌日のほうが強く出ることもあります。一度誘導すると自分の意思ではすぐに消せないため、試すかどうかは、その性質を理解したうえで判断するのが誠実なところです。
普通の残像(補色残像)とは何が違うのですか?
補色残像は数秒で消え、見た場所に張りつき、両目で見えます。マッカロー効果は線の「向き」に張りつき、誘導した側の目でしか出にくく、数日から数ヶ月持続します。網膜の疲労では説明できない点が、最大の違いです。
なぜ「テストするほど消える」のですか?
1975年のジョーンズとホールディングの実験で判明した性質です。効果を確かめるには白黒の格子(色なし)を見せますが、これが連合学習でいう消去試行のように働き、向きと色の結びつきを弱めると考えられています。一度も確かめなければ、効果ははるかに長く残ります。
結局、脳のどこで起きているのですか?
片目性であることや向きへの依存から、視覚処理のごく早い段階、一次視覚野(V1)付近を指す証拠が多くあります。一方で、長期持続や定着は記憶・学習に近い。この「早い場所なのに記憶のように振る舞う」矛盾が、60年たっても決着しない理由です。
かかってしまった効果を消す方法はありますか?
放っておけば、日常生活で縞模様(ブラインドや柵など)を見るうちに少しずつ薄れます。色と向きの組み合わせを逆にして誘導し直し、打ち消す方法も知られています。とはいえ、個人差が大きく、数ヶ月単位で残る人もいます。

参考文献

McCollough effect – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/McCollough_effect
Celeste McCollough – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Celeste_McCollough
Jones & Holding (1975) “Extremely Long-Term Persistence of the McCollough Effect”(原論文PDF)
http://wexler.free.fr/library/files/jones (1975) extremely long-term persistence of the mccollougheffect.pdf
McCollough effect – Scholarpedia
http://www.scholarpedia.org/article/McCollough_effect
McCollough Effect – The Illusions Index
https://www.illusionsindex.org/i/mccollough-effect
Tregillus & Engel (2021) “The McCollough World”(Vision Research)
https://par.nsf.gov/servlets/purl/10319944

コメント (0)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です