錯視(さくし、optical illusion)は、ものの長さや形、明るさ、色、動きが、物理的な実際とは違って知覚される現象である。目の錯覚とも呼ばれ、錯視だと知ったうえで見ても、見え方はほとんど変わらない。
錯視はいくつかの型に分けて論じられることが多い。同じ長さの線が矢羽の向きによって違う長さに見えるミュラー=リヤー錯視(1889年)のような幾何学的錯視、ひとつの図が二通りに読めて見え方が切り替わる多義図形、同じ灰色が周りの明るさしだいで違って見える明るさや色の錯視、止まっている絵が動いて見える運動錯視などである。1832年にスイスの結晶学者ルイ・アルベール・ネッカーが報告した立方体の線画や、1915年にデンマークの心理学者エドガー・ルビンが示した、杯にも向かい合う二つの顔にも見える図は、多義図形の代表例として知られる。
錯視の研究が明らかにしてきたのは、見るという行為が目に映った像の写しではなく、脳が手がかりから推測を組み立てる作業だということだった。ゲシュタルト心理学は、その推測の決まりを、まとまりの法則や図と地の関係として整理した。
美術とデザインは、この性質を長く利用してきた。本物と見まがう描写で目をだますトロンプ・ルイユ(だまし絵)は古代から描かれ、1960年代には幾何学的なパターンで画面を揺らがせるオプ・アートが流行する。1965年にニューヨーク近代美術館で開かれた「レスポンシブ・アイ」展には、ヴィクトル・ヴァザルリやブリジット・ライリーらの作品が並んだ。日本では、心理学者の北岡明佳が2003年に発表した「蛇の回転」が、静止画なのに回って見える図として広く知られている。
その一方で、デザインの現場では、錯視は打ち消すべきものでもある。書体の設計では、丸いOや尖ったVをまっすぐなHと同じ高さで作ると小さく見えるため、わずかに上下へはみ出させる。こうした視覚補正は、文字組みからロゴ、建築の細部にまで及ぶ。
多義図形の代表であるネッカーの立方体はネッカーの立方体で、知覚のまとまりの決まりはプレグナンツの法則で取り上げた。見たあと数か月も残る色の残像については、マッカロー効果とはに詳しい。