びっくりマーク「!」小史|広告と前衛が同じ年に叫び始めた1923年

びっくりマーク「!」小史|広告と前衛が同じ年に叫び始めた1923年

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ベルリンの一角に、ロシアから来たデザイナーが通う印刷所があった。エル・リシツキー、当時32歳。彼が組んでいたのは、ウラジーミル・マヤコフスキーの詩集『声のために(Для голоса)』だった。書名どおり、声に出して読むための本である。

問題は、本という形式そのものが声を出さないことだった。リシツキーは活字、罫線、約物──ピリオドや感嘆符のような記号──といった印刷所の標準パーツだけを組み合わせ、ページの上で声が立ち上がる仕掛けを作る。ある詩のページでは矢印が斜めに走り、別の詩では巨大な「!」が紙面の中央を縦に貫く。彼自身は2年後の論考でこう書いた。「詩人が言葉のなかで概念と音を統一しようとするように、私は詩と活字とで同じ統一を試みた」。

声の本。声を持たない印刷物が、ついに大声を上げ始めた瞬間である。同じ1923年、地球の反対側で、別の人間たちが似た問題を考えていた。

「io」と修道士たち

この物語を遡るには、約600年戻る必要がある。

14世紀のイタリア、修道院の写本工房。書記たちはラテン語で文章を写しながら、喜びや驚きを示す箇所に「io」と書き添えていた。「io」はラテン語で「やった」「万歳」を意味する歓声である。やがてiが上、oが下に縦に並べて書かれるようになり、oは小さくなり、最終的に点になった。これが「!」の最も有力な起源説とされている。1399年、フィレンツェの人文学者コルッチョ・サルターティの手稿に、現在の形に近い記号が記録されている。

記号を体系化したのは、同じく14世紀のイタリアの詩人・文法家ヤコポ・アルポレイオ・ダ・ウルビザーリャ。彼はこの記号にpunctus admirativus(驚嘆点)と名付けた。動機は単純で、「読者が感情のこもった文章を平板に読むのに苛立った」というものだった。記号は15世紀に英語圏の印刷物に持ち込まれ、note of admiration(驚嘆の点)と呼ばれた。シェイクスピアは1611年にこの呼称を使っている。

「exclamation mark」という現在の呼び方が定着するのは17世紀以降だ。記号自体は500年以上前から存在していたが、活字書体のなかで真剣にデザインの対象になるのは、もっとずっとあとのことだった。

screamer──活字書体のなかの「!」

タイポグラファーにとって、「!」は意外と難物である。

縦棒と点という単純な構成に見えて、書体ごとに表情がまったく違う。18世紀末に登場したボドニのような近代ローマン体では、縦棒の上下に明確な太さのコントラストが付き、上が太く下が細く絞られる。19世紀初頭から登場するサンセリフ体──英語圏ではgrotesqueと呼ばれた──では均一な太さの棒になり、点も幾何学的な円に近づく。1928年にヤン・チヒョルトが『新しいタイポグラフィ』で機能主義的なサンセリフ書体の優位を説いて以降、「!」の縦棒は均一に、点との間隔はより詰まり、記号の緊張感が強められていく。同じ1928年に発表されたエリック・ギル設計のGill Sansを思い浮かべればわかりやすい。

タイプライターの時代、「!」には独立したキーが与えられていなかった。1970年代に至るまで、書き手はピリオドを打ってキャリッジを一文字戻し、アポストロフィを重ね打ちして「!」を自作していた。手間がかかる以上、書き手は本当に必要なときしかこの記号を打たない。機械の構造そのものが、抑制装置として作用していたわけだ。

英語圏の印刷工たちは、この記号にいくつもの隠語を持っていた。screamer(金切り声)、bang(爆音)、shriek(悲鳴)、slammer(強打)、gasper(息切れ)。活字を金属の枠に詰めるかちゃかちゃと冷たい作業の向こうで、彼らはこの記号がページ上で何をしているかを正確に理解していた。叫んでいるのだ。

大声を出した年──1923

1923年に起きていたのは、別々の場所で別々の人物が、ほぼ同時に「大声を出す技術」を理論化したことだ。

ベルリンでリシツキーが『声のために』を組んでいた頃、ニューヨークでエドワード・バーネイズが『世論の結晶化(Crystallizing Public Opinion)』を執筆していた。同年12月刊。ジークムント・フロイトの甥にあたるバーネイズは、世論を「群れの判断」と捉え、それを意図的に動かす職業──パブリック・リレーションズという言葉を、この本ではじめて公的に定義した。後年の彼は、女性の喫煙キャンペーンや中米の政変工作にまで手を伸ばす。だが出発点はこの薄い本にある。

同じ1923年、シカゴでクロード・ホプキンスが『科学的広告法(Scientific Advertising)』を出版する。広告代理店ロード・アンド・トーマスを退いた直後の著作で、本文わずか112ページ。クーポン回収率で広告効果を測定し、「証明できない美辞麗句を書くな」「テストせずにスケールするな」と説いた。デイヴィッド・オグルヴィは数十年後、これを「広告について書かれたもっとも重要な本」と評している。

詩を視覚的に叫ばせるリシツキー。群衆心理を解析するバーネイズ。広告を計測可能にするホプキンス。三人は互いを知らない。だが彼らがしていたことは、ひとつの方向を指している。読者・聴衆・消費者の注意を意識的に奪うこと。文字や言葉や記号を、無音から音響へと転じさせること。前衛芸術と商業広告という、当時は反目しあっていたはずの領域で、同じ問題が同時に解かれていた。

ロトチェンコと、放たれる文字

その翌年、モスクワでアレクサンドル・ロトチェンコが一枚のポスターを完成させる。

1924年、レニングラード国立出版所LENGIZ(レンギス)の広告。撮影されたのは詩人マヤコフスキーの長年の恋人で、文化人として知られていたリーリャ・ブリーク。頭巾をかぶった彼女が口元に手を添え、横顔で何かを叫んでいる。彼女の口から伸びる赤い扇形のなかに、白いサンセリフ太字でКНИГИ(クニーギ=書籍)の四文字。下には「あらゆる分野の知識」と続く。

ロトチェンコは写真と活字を組み合わせ、ブリークの口を文字通り拡声器に変換した。識字率向上を国家事業に掲げていた1920年代のソ連は──男性の非識字率はおよそ60%、女性はそれ以上──本を売り歩くのではなく、本そのものに叫ばせた。記号としての「!」はこの構図のなかにない。だが画面全体がひとつの巨大な「!」になっている。叫んでいる人物、放たれる文字、突き刺さる赤の三角。リシツキーが1923年に印刷面の上でやったのと同じ仕事を、ロトチェンコはポスターの上で完成させた。

マヤコフスキー、リシツキー、ロトチェンコ、ブリーク。彼らはロシア構成主義と未来派の周辺で互いに濃く交差していた。1923年に創刊された前衛文芸誌『LEF』は、マヤコフスキーが編集を、ロトチェンコが表紙とレイアウトを担っている。声に出して読まれるための詩を、視覚的に叫ばせるデザイナーたち。彼らが扱っていたのは「集積する文字」と「放たれる文字」の対比だった。整然と並ぶ本文と、画面を突き刺す見出し。後者の最小単位が「!」である。

文学からの追放

ところが、その後の半世紀ほど、「!」は文学の本流から追い払われていく。

F・スコット・フィッツジェラルドはこう書き残している。「これらの感嘆符をすべて取り除きなさい。感嘆符というのは、自分のジョークに自分で笑うようなものだ」。文章は内容の力で読者を動かすべきで、記号で感情を補強するのは作家の敗北である、という考え方だ。

ハードボイルド作家エルモア・レナードは『書くことの10のルール』のなかで、「10万語につき2〜3個まで」という自分への上限を公にした。ファンタジー作家テリー・プラチェットは小説の地の文に「感嘆符を5つも使うのは、狂気の確かなしるしだ」と書いた。マーク・トウェインも同様の発言を残している。1920年代から20世紀後半まで、純文学の世界では、感嘆符を打つことが教養の欠如と同義になっていった。

「!」は安っぽさの記号として、別の場所で生き続ける。スーパーマンの吹き出しのBANG! やPOW!、駄菓子屋の値引きチラシ、タブロイド紙の一面見出し、映画の宣伝コピー。植字工がscreamerと呼んだその性質──ページの静けさを壊す機能──は、ふたつの世界大戦のあいだに完全に低俗の側に振り分けられた。1960年代、ポップアートのロイ・リキテンスタインがコミックの「!」を巨大なキャンバスに引き伸ばしたとき、彼が引用していたのはこの低俗のほうである。

復権、そして雪崩

抑制が外れたのは、キーボードがすべての家庭に届いたときだった。

電子メール、テキストメッセージ、SNS。文字だけで感情を伝えなければならない媒体において、「!」は急速に再評価される。「Thanks.」と「Thanks!」では受け手に届く温度がまったく違う。ピリオドだけの返信は冷たく、ぞんざいに、最悪の場合は怒っているように感じられる。2008年に出版された『Send: 仕事と家庭のためのメール本質ガイド』の著者デイヴィッド・シプリーとウィル・シュワルブは、ビジネスメールでの「!」の擁護派として知られる。校正者たちはこの増殖現象に「bangorrhea(バンゴレア=感嘆点の下痢)」という不名誉な医学用語風の名前をつけた。

クリックベイト見出しも同じ装置を使う。「!」は読者の目に対する物理的なフックである。タイムライン上で平叙文を流し見しているスクロールを、突然止めるための小さな縦棒。プッシュ通知の本文末尾、ECサイトの値引きバナー、Xの炎上ポスト。20世紀前半に広告と前衛がほぼ同時に発明した「視覚的な叫び」は、いま私たちの手のひらのなかで日常的に増殖している。

リシツキーが1923年の冬に組んだあの巨大な「!」は、紙の上に静かに置かれていた。一冊だけの本のなかで、声に出して読まれることを待っていた。それが現在、何百万もの画面の上で、同時に、自動的に、無人のまま光っている。中世の修道士が「io」と書いた紙片から、ベルリンの印刷工房を経て、スマートフォンの通知バーまで。点と縦棒の小さな旅路は、まだ終わっていない。

Q&A

感嘆符の起源「io」とは何ですか?
ラテン語で「やった」「万歳」を意味する歓声です。中世の写本工房で、書記たちが喜びや感動を示す箇所にこの単語を書き添えた。やがてiが上、oが下に縦に並べて書かれ、oが小さくなって点となり、現在の「!」の形になったとされる説が最も有力です。
なぜ作家たちは「!」を嫌ったのですか?
フィッツジェラルドは「感嘆符は自分のジョークに自分で笑うようなもの」と述べた。文章は内容の力で読者を動かすべきで、記号で感情を補強するのは作家の敗北であるという考え方が、19世紀末から20世紀後半まで主流でした。タイプライターに専用キーがなかった機械的事情も、抑制装置として作用していたと考えられます。
リシツキーの『声のために』はどのような本ですか?
ロシアの未来派詩人マヤコフスキーの13篇の詩集で、声に出して読むために設計された本です。1923年にベルリンで印刷・刊行されました。リシツキーは活字、罫線、約物のみを用いてページ上に視覚的な律動を作り出し、現代タイポグラフィ史上の傑作と評価されています。MoMA、RISDミュージアム、トレド美術館などが所蔵しています。
「screamer」「bang」とは何ですか?
英語圏の印刷工が「!」を呼ぶときの隠語です。screamer(金切り声)、bang(爆音)、shriek(悲鳴)、slammer(強打)、gasper(息切れ)など、いずれもこの記号がページ上で発する「音」を表現したものです。
現代のSNSや通知における「!」の役割は何ですか?
視覚的なフックとして機能します。タイムライン上で文字を流し見しているユーザーの目を物理的に止めるための小さな縦棒、というのが本質です。クリックベイト見出し、プッシュ通知、ECサイトの値引きバナーなど、注意を奪い合う場面で使われ続けている。校正者の世界では過剰使用を「bangorrhea」と呼ぶ用語まで存在します。

参考文献

Exclamation mark – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Exclamation_mark
El Lissitzky. Dlia golosa (For the Voice). 1923 | MoMA
https://www.moma.org/collection/works/14473
Dlia golosa (For the Voice) | RISD Museum
https://risdmuseum.org/art-design/collection/dlia-golosa-voice-2006921
Speaking Typography: Letter as Image as Sound | Design Observer
https://designobserver.com/speaking-typography-letter-as-image-as-sound/
Scientific Advertising – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Scientific_Advertising
Crystallizing Public Opinion – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Crystallizing_Public_Opinion
Alexander Rodchenko – Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Alexander_Rodchenko
After Years Of Restraint, A Linguist Says ‘Yes!’ To The Exclamation Point | NPR
https://www.npr.org/transcripts/532148705

基本データ

記号
!(exclamation mark / 感嘆符 / びっくりマーク)
Unicode
U+0021
起源説
ラテン語「io」(歓喜の歓声)。中世にiとoが縦に並び、oが点に縮小
命名
ヤコポ・アルポレイオ・ダ・ウルビザーリャ(14世紀イタリア、punctus admirativus)
初期の英語名
note of admiration / note of exclamation(15〜17世紀)
印刷工の隠語
screamer / bang / shriek / slammer / gasper(英語圏)
タイプライター専用キー
1970年代以降(それ以前はピリオド+アポストロフィの重ね打ち)
1923年の関連書籍
『声のために』(リシツキー&マヤコフスキー、ベルリン)/『世論の結晶化』(エドワード・バーネイズ)/『科学的広告法』(クロード・ホプキンス)
1924年の関連作品
『LENGIZ書籍ポスター』(アレクサンドル・ロトチェンコ、被写体リーリャ・ブリーク)
過剰使用を指す造語
bangorrhea(バンゴレア=感嘆点の下痢、英語圏校正者の隠語)

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