世界2%の緑の瞳|遺伝と光学が生む最も希少な色を紐解く

世界2%の緑の瞳|遺伝と光学が生む最も希少な色を紐解く

目次

1985年6月、ある一枚の雑誌の表紙が世界を黙らせました。赤いショールから覗いていたのは、燃えるように緑がかった瞳。撮影者はスティーブ・マッカリー、被写体は当時12歳前後のアフガニスタン難民、シャルバート・グーラ。

『ナショナル・ジオグラフィック』はこの写真を1985年、2002年、2013年と三度にわたって表紙に起用しました。同誌史上、繰り返し表紙を飾った数少ない一枚です。なぜ世界はあの瞳から目を離せなかったのか。理由のひとつは身も蓋もないほど単純で、緑の目は地球上を歩き回ってもめったに出会えないからです。

「世界に2%」が意味するもの

米国の科学メディア『IFLScience』が改めて取り上げ、SNS上でも話題になっているテーマがあります。緑の瞳は、世界でもっとも希少な瞳の色だ──。

米国眼科学会(AAO)の見解にもとづくと、自然な緑の瞳を持つ人は世界人口のおよそ2%。茶色がおよそ70〜79%、青がおよそ8〜10%、ヘーゼルが約5%という分布のなかで、緑だけが極端に少ない数字に沈みます。地理的な偏りは大きく、人口遺伝学者のティモシー・セクストン博士はNewsweekの取材で、アイルランド、スコットランド、英国、フランス、ドイツなど一部のヨーロッパ諸国では出現率が格段に高いと述べています。米国内ではおよそ9%という調査結果もあります。2%はあくまで世界平均の数字です。

そもそも虹彩には「緑の色素」がない

ここから話はやや反直感的になります。

人間の虹彩には、緑色の色素は存在しません。瞳の色を決めているのは、メラニンという一種類の色素の量とタイプ、そして光の散乱だけです。茶色の瞳はメラニンが豊富で、光をたっぷり吸収する。青い瞳はメラニンがごく少なく、虹彩内でレイリー散乱(チンダル効果)が起きることで青く見える。澄み切った空が青く見えるのと同じ仕組みです。

緑の瞳は、その中間に位置します。少量のユーメラニン、わずかに黄色みを帯びたフェオメラニン、そして青く散乱する光。この三つが虹彩のなかで重なった瞬間に、人間の視覚は「緑」を受け取ります。絵具を混ぜたのではなく、光と色素の合作です。

OCA2とHERC2、複数遺伝子の偶然

かつての生物の授業では、瞳の色は「茶色が優性、青が劣性」とメンデルの法則で説明されていました。今は少なくとも16ほどの遺伝子が関与する多因子遺伝形質、というのが標準的な理解です。

主役は染色体15番に並ぶOCA2とHERC2。OCA2はメラニン生成を司るPタンパク質をコードし、HERC2はそのOCA2のスイッチを調節します。HERC2のイントロン86にある変異(rs12913832)でOCA2の働きが抑えられればメラニンが減り、瞳は淡い色に傾く。OCA2上のrs1800407変異は、緑やヘーゼルの瞳との関連が報告されています。

ここにSLC24A4、TYR、TYRP1、IRF4といった脇役の遺伝子が微調整係として加わり、最終的な色が決まります。緑の瞳は、これら複数の遺伝子の組み合わせがたまたまちょうど良いバランスで揃ったときに出現する色。ひとつの劇的な突然変異ではなく、小さな確率の積み重ねです。研究者によれば、青い瞳のもとになった変異が最初に現れたのは6,000〜10,000年前、黒海周辺ではないかとも推測されています。緑の瞳もまた、その後の集団の混じり合いのなかで、欧州・西アジアを中心に広がっていきました。

魔女、女神、緑の瞳の水の精

希少な色には、いつの時代も物語が貼りついてきました。

古代エジプトでは、緑は再生と健康のシンボル。病から身を守る護符「ホルスの目」は、しばしば緑色の石でつくられたと伝えられます。クレオパトラが愛用したアイメイクにもマラカイト由来の緑顔料が用いられ、緑は聖性と生命を呼び込む色として扱われました。

中世のヨーロッパに下ると、緑の瞳の象徴性は少しずつ位相を変えます。一部の地域では魔女のしるしと見なされたといい、英国の民話に登場するペグ・パウラーやジェニー・グリーンティース、スラヴ伝承のルサルカなど、「緑の瞳を持つ水辺の霊」が各地に伝わっています。子どもを危険な川から遠ざける、生活の知恵として生まれた物語だったのかもしれません。

近代以降のビジュアル文化でも、緑の瞳は神秘・魅惑・危うさの記号として繰り返し描かれてきました。ディズニーのマレフィセント、北欧神話を下敷きにしたロキの現代的な造形、ハイファッションの肖像写真、コンタクトレンズ広告。マッカリーが撮影したあの一枚も、こうした長い視覚文化の系譜の上に着地して、世界の眼差しを掴みました。

日本人と緑の瞳、河童の話

日本ではどうか。

東アジア系の人々の虹彩には濃いメラニンが豊富にあり、自然に緑の瞳を持って生まれる人はほぼいません。日本における「緑の目」は、現実の街中というより、アニメやマンガのキャラクター造形、もしくはカラーコンタクトのデザインを通じて出会うほうがずっと身近です。「緑の瞳のヒロイン」というアイコンには、ヨーロッパの神話的・文学的な記号が輸入され、日本独自の意味合いで再解釈されている面もあります。

それでも日本の民間伝承には、「緑の体や光る目を持つ水辺の妖」のイメージが生きています。河童は地方によって緑色の体と異様な目で描かれ、川辺で子どもをさらう存在として語り継がれてきました。スラヴのルサルカ、英国のジェニー・グリーンティース、日本の河童。文化の系統はまったく違うのに、人類は世界のあちこちで「緑色をした水辺の何か」を恐れ、描いてきた。

「世界に2%」というそっけない数字の裏には、遺伝子のサイコロの目と、光の散乱と、人類が幾千年と紡いできた物語が折り重なっています。次にどこかで緑の瞳を見かけたとき、それが単なる珍しい色ではないことだけ、頭の片隅に置いてもらえたら。

Q&A

緑の瞳とヘーゼルの瞳はどう違いますか?
緑の瞳は虹彩全体が比較的均一な緑色をしているのに対し、ヘーゼルは茶色や金色のフレックが混在し、光の当たり方で見え方が変わります。両者は混同されやすく、自然光のもとで他の色の瞳と並べて比べると違いがわかりやすいと言われています。
緑の瞳の赤ちゃんは生まれたときから緑色ですか?
多くの場合、生まれた直後の虹彩にはまだメラニンが十分に作られておらず、青やグレーに見える赤ちゃんが多いとされています。メラニン生成が進む生後6か月から3歳ごろにかけて瞳の色が決まっていき、最終的に緑やヘーゼル、茶色などに落ち着きます。
緑の瞳は「突然変異」ですか?
単一の突然変異というより、複数の遺伝子の組み合わせと光の散乱が生む結果です。約6,000〜10,000年前にヨーロッパで現れたとされる青い瞳に関連する変異が広がったあと、集団が混じり合うなかで、緑の瞳が中間的な色として現れるようになったと推測されています。
日本人で自然に緑の瞳の人はいますか?
濃いメラニンを持つ東アジア系の人々のあいだで自然に緑の瞳が生まれることは非常にまれで、日本人の場合もほぼ見られません。混血や非常に薄い色素の例で緑がかって見えるケースはありますが、その場合もヘーゼル寄りであることが多いです。
緑の瞳は目の健康に影響しますか?
メラニン量が少ない明るい色の瞳は紫外線をブロックする力が弱く、強い日差しのもとでまぶしさを感じやすいとされています。加齢性黄斑変性症や眼の悪性黒色腫(ぶどう膜悪性黒色腫)のリスクがわずかに上がる可能性も報告されています。サングラスや帽子による紫外線対策が推奨されます。

調べてみたこと

世界での出現率(推定)
約2%(米国眼科学会・AAO見解にもとづく一般的な目安)
瞳の色の主な内訳(世界平均の目安)
茶色 約70〜79%/青 約8〜10%/ヘーゼル 約5%/緑 約2%/グレー・アンバー・赤・紫など 1%未満
緑の瞳が比較的多い地域
アイルランド、スコットランド、英国、フランス、ドイツ、アイスランド、フィンランド、トルコ西部などの欧州・西アジア
主要な関連遺伝子
OCA2、HERC2(いずれも染色体15番)、補助的にSLC24A4、TYR、TYRP1、IRF4、SLC45A2など
瞳の色を生む主な仕組み
虹彩のメラニン量と種類(ユーメラニン/フェオメラニン)、および虹彩内での光の散乱(レイリー散乱/チンダル効果)
象徴的な事例
スティーブ・マッカリー撮影の「アフガンの少女」(1985年『ナショナル・ジオグラフィック』6月号表紙、被写体:シャルバート・グーラ)

参考文献

Why Just 2 Percent Of Humans Have Green Eyes – The Rarest Eye Color In The World(IFLScience)
https://www.iflscience.com/why-just-2-percent-of-humans-have-green-eyes-the-rarest-eye-color-in-the-world-83522
Green Eyes: Why Rare? Genetics Explained By Experts(Newsweek)
https://www.newsweek.com/green-eyes-why-rare-genetics-explained-experts-1866040
Is eye color determined by genetics?(MedlinePlus Genetics, U.S. National Library of Medicine)
https://medlineplus.gov/genetics/understanding/traits/eyecolor/
Only 2% of the world’s population has green eyes. Why so few?(Genetic Literacy Project)
https://geneticliteracyproject.org/2024/02/05/only-2-of-the-worlds-population-has-green-eyes-why-so-few/
Eye Color: Percentage of the World Population With Each Shade(HowStuffWorks)
https://science.howstuffworks.com/life/genetic/eye-color-percentage.htm
Afghan Girl(Wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/Afghan_Girl
ヒトの虹彩の色(Wikipedia 日本語版)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%88%E3%81%AE%E8%99%B9%E5%BD%A9%E3%81%AE%E8%89%B2
Green Eyes: Myths, Migration and Melanin(LOST ART)
https://www.lost-art.media/thought/green-eyes-myths-migration-and-melatonin

コメント (0)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です