砂漠の上空から見えた260の円
スーダン東部、ナイル川と紅海のあいだに広がるアトバイ砂漠。乾いた岩と砂しかないと思われてきたこの土地に、衛星画像で見ると直径80メートルにおよぶ円形の石組みが、点々と散らばっている。一つ二つではない。研究者がGoogle Earthをはじめとする衛星画像を読み解いたところ、これまで知られていなかった260基もの巨大な「囲い墓」が浮かびあがった。
豪マッコーリー大学のジュリアン・クーパー博士らが率いる「アトバイ・サーベイ・プロジェクト」の成果である。約1,000キロメートルにわたる砂漠地帯を衛星から精査し、合計280基の記念碑的構造物を記録。そのうち260基は完全な新規発見だった。研究は2026年4月、学術誌『African Archaeological Review』に掲載されている。
そして、この発見にはもう一つの顔がある。砂漠で進行中の、新たなゴールドラッシュだ。

「ピラミッドより古い」モニュメント
「囲い墓(Atbai Enclosure Burials)」と研究チームが呼ぶこの構造物は、直径数メートルの小さなものから80メートル超の大型まである。共通するのは、円形または楕円形の石壁が外周をぐるりと囲み、その内側に人骨が眠っているという点。人だけではない。ウシ、ヒツジ、ヤギの骨も同じ円の中にある。
築かれたのは、紀元前4000年から3000年ごろ。エジプトでファラオの王国が誕生する直前にあたる。最も古い段階のものは、ギザのピラミッドより数百年早い。とはいえ、彼らはエジプト人ではなかった。都市も農耕もなく、家畜とともに砂漠を移動する遊牧民。生活は文字どおり、四本足のもののうえに乗っていた。
これまでもエジプトやスーダンの砂漠で似た構造の遺跡は知られていたが、発掘例は数えるほどしかなかった。今回の調査は、それらが孤立した特異点ではなく、紅海とナイルのあいだに広がる一つの埋葬文化だったことを示している。
四本足の「フェラーリ」
注目されているのは、人と家畜が同じ墓に並んで葬られている点である。発掘済みのワディ・カシャブ(Wadi Khashab)などの事例では、中央に置かれた人物の周囲を、ウシやヒツジの埋葬が囲むように配置されていた。
研究チームの解釈はわかりやすい。乾燥が進む砂漠で大量の家畜を養うのは、それ自体が並はずれた財産だった。クーパー博士はこれを「先史時代のフェラーリ」と表現する。手放しがたい高級品を、所有者は死後の世界にも連れて行こうとした、というわけだ。
さらに重要なのは、墓の内部構造である。中央に一人の人物が安置され、その周りに別の人と家畜が放射状に並ぶ構成は、共同体内部に序列が生まれつつあったことを示唆する。「王」と呼ぶには早いが、平等な遊牧民集団から首長や祭祀者のような存在が立ち上がってくる――その瞬間が、石に刻まれていたのかもしれない。考古学が長らく抱えてきた問い、「サハラの遊牧民はいつから階層化したのか」に対する、有力なデータでもある。

乾いていく大地と、消えていく牧畜
築造年代は、サハラが現在の姿になりつつあった時期と重なる。およそ15,000年前から5,000年前ごろまで続いた「アフリカ湿潤期」が、ちょうど終わりに近づいたタイミングだ。モンスーンが後退し、湖や季節河川が縮み、放牧地が痩せていく。
衛星画像で確認されたモニュメントの分布は、この時代の水と密接に結びついている。多くは涸れ川(ワディ)、岩のくぼみにできる小さな水たまり、季節的に水がたまる窪地のそばに造られていた。人々はそこに集まり、家畜に水を飲ませ、死者を弔い、共同体の記憶を更新していたとみられる。最大の集中はワディ・ガブガバ上流域。
やがてウシは飼いきれなくなる。後の時代の遊牧民は、より乾燥に強いヒツジ、ヤギ、そして最終的にラクダへと家畜の中心を移していくことになる。
ゴールドラッシュという脅威
ここまでは、5000年前の話である。けれど、論文を読みながら背筋が冷えるのは、現在の話と地続きだからだ。
スーダン東部のこの砂漠は、古代エジプトの時代から金の採れる土地として知られてきた。そして2010年代以降、半機械化された零細採掘ブームに突入し、いまもなお拡大を続けている。スーダンの金産業は12億ドル規模ともいわれ、2023年に勃発した内戦のもとでは東部一帯を掌握するスーダン国軍系の重要な収益源となっている。産出された金の多くがエジプト経由でドバイへと流れているとの指摘もある。
問題は、その採掘現場が遺跡と重なっていることだ。深さ20メートル級の坑道が砂漠に穴を開け、重機が地表をえぐる。2020年にはクシュ王国時代の遺構「ジャバル・マラガ」が無許可採掘者の重機によって深さ約17メートルの溝に変貌し、原型をとどめないまでに破壊された。スーダン考古博物館当局によると、すでに知られている遺跡1,000か所のうち、少なくとも100か所が破壊されているという。
クーパー博士の研究チームも「これらの墓は数千年生き延びてきたが、一週間で消えうる」と警告する。今回の260基のうちにも、衛星画像上ですでに荒らされた痕が見える区画があった。

衛星から見つけ、衛星のうちに失うかもしれないもの
砂漠でフィールドワークが困難なエリアでは、Google Earthや商用衛星画像がいまや考古学者の主要な道具になりつつある。今回の発見も、現地に足を踏み入れる前に、衛星から始まった。皮肉なのは、その同じ衛星画像が、遺跡が消えていく様子も同時に記録していることだ。
ピラミッドが立ち上がる前夜、砂漠の遊牧民が築いた巨大な円。そこに眠る人と家畜の骨は、5000年のあいだ風と砂のなかで沈黙していた。彼らの記念碑が、現代の金鉱探しの重機に砕かれて消えるのか、それともかろうじて生き延びるのか。論文に書かれているのは古代史だが、答えはこれから書かれる。
Q&A
- 「アトバイ囲い墓(Atbai Enclosure Burials)」とは具体的にどんな構造ですか?
- 外周に円形または楕円形の石壁を巡らせ、その内側に人と家畜(ウシ・ヒツジ・ヤギ)を一緒に埋葬した記念碑的な墓です。直径は数メートルから80メートル超まで幅があり、内部には中央の「主埋葬」と、その周りを取り囲む「副埋葬」が認められる例もあります。
- なぜ衛星画像で発見できたのですか?
- アトバイ砂漠は広大かつ過酷な環境で、徒歩や車での網羅的踏査は事実上不可能です。研究チームはGoogle Earthなどの衛星画像を体系的に解析し、地表に残る円形の輪郭や石積みの影を一つずつ判別しました。スーダンの治安状況の悪化により現地調査が難しい点も、衛星考古学が前面に出る理由の一つです。
- なぜ人と家畜が同じ墓に埋葬されたのですか?
- 当時の遊牧民にとって、ウシなどの大型家畜は単なる食料ではなく、富と地位の象徴でした。研究を主導したクーパー博士はこれを「先史時代のフェラーリ」と表現しています。所有者の死とともに家畜を葬る習慣は、社会的地位や祖先への帰属を可視化するふるまいだった可能性があります。
- これはエジプトのピラミッドとどう関係しますか?
- 築造年代は紀元前4000〜3000年で、エジプト統一王朝の成立直前にあたります。最古段階のものはギザのピラミッドより数百年早く、王権と巨大記念碑がナイル流域で結びつく前夜の、別系統の「砂漠のモニュメント文化」を示しています。
- なぜゴールドラッシュが遺跡を破壊するのですか?
- スーダン東部の砂漠は古代から金が採れる地域で、2010年代以降は重機を使う零細採掘が急拡大しています。2023年に始まった内戦下では金の輸出が武装勢力の資金源にもなっており、地表をえぐる無許可採掘が遺跡と直接ぶつかっています。すでに知られている遺跡1,000か所のうち少なくとも100か所が破壊されたとされています。
メモ
- 研究プロジェクト名
- アトバイ・サーベイ・プロジェクト(Atbai Survey Project)
- 発見地
- アトバイ砂漠(スーダン東部、ナイル川と紅海のあいだ。一部はエリトリア・エジプト国境方面まで延伸)
- 発見数
- 新規260基/既知分を含む合計280基
- 構造名
- アトバイ囲い墓(Atbai Enclosure Burials, AEB)
- 規模
- 直径数メートル〜80メートル超の円形・楕円形の石組み
- 推定築造年代
- 紀元前4000〜3000年頃(一部の関連事例はさらに古い時代まで遡る可能性あり)
- 主要既知発掘地
- ワディ・カシャブ(Wadi Khashab)、ワディ・エル・クー(Wadi el-Ku)、ビル・アセレ(Bir Asele)
- 調査範囲
- ナイル川以東、約1,000kmにわたる砂漠地帯(最大集中域はワディ・ガブガバ上流域)
- 主執筆者
- ジュリアン・クーパー(豪マッコーリー大学)、マリー・ブルジョワ、マエル・クレピー、マリア・ガット(ポーランド科学アカデミー)ほか
- 調査手法
- 衛星リモートセンシング(Google Earth、商用衛星画像、QGIS)
- 論文掲載誌
- African Archaeological Review(2026年)/DOI: 10.1007/s10437-026-09654-y
参考文献
- 260 Giant Monuments Found In Sahara Desert, Where A Dangerous New Gold Rush Is Heating Up(IFLScience)
- https://www.iflscience.com/260-giant-monuments-found-in-sahara-desert-where-a-dangerous-new-gold-rush-is-heating-up-83507
- 260 Monumental Tombs Older Than Egypt’s Pyramids Discovered in the Sahara(Arkeonews)
- https://arkeonews.net/260-monumental-tombs-older-than-egypts-pyramids-discovered-in-the-sahara/
- We found hundreds of huge ancient mass graves hidden in the Sahara desert(The Lighthouse / Macquarie University)
- https://lighthouse.mq.edu.au/article/2026/may-2026/ancient-mass-graves-in-sahara
- Atbai Enclosure Burials: Monumentalism, Pastoralism and Environmental Change in the Mid-Holocene East Nubian Deserts(African Archaeological Review, 2026)
- https://doi.org/10.1007/s10437-026-09654-y
- サハラ砂漠に眠る「巨大な集団墓地」を一挙に260基も発見(ナゾロジー)
- https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/195099
- Julien Cooper – Macquarie University(研究者プロフィール)
- https://researchers.mq.edu.au/en/persons/julien-cooper/
- Treasure Hunters Destroy 2,000-Year-Old Heritage Site in Sudan(Smithsonian Magazine)
- https://www.smithsonianmag.com/smart-news/gold-diggers-destroy-ancient-kush-site-sudan-180975685/
- Sudan war: A proxy conflict fueled by gold(GIS Reports, 2026)
- https://www.gisreportsonline.com/r/sudan-war-fueled-by-gold/
コメント (0)