アプロプリエーション(appropriation)は、既存の写真や絵画、広告などのイメージを意図的に借用し、そのまま、あるいはわずかに手を加えて自分の作品として示す美術の手法である。流用とも訳され、この手法による作品はアプロプリエーション・アートと呼ばれる。
前史には、既製品を作品にしたマルセル・デュシャンのレディメイドや、紙片を貼り込んだキュビスムのコラージュがある。1960年代には、アンディ・ウォーホルが報道写真や商品のパッケージを、ロイ・リキテンシュタインが漫画のコマを絵画に引き写した。同じころエレイン・スターテヴァントは、ウォーホルやオルデンバーグの作品を自分の名で作り直し、オリジナルとは何かを問うている。
手法として名前が定着するのは1970年代末から80年代である。1977年にニューヨークのアーティスツ・スペースで開かれた展覧会「ピクチャーズ」を起点に、シェリー・レヴィーンはウォーカー・エヴァンズの写真を図録から撮り直して発表し、リチャード・プリンスはたばこ広告のカウボーイを撮り直した。彼らが問題にしたのは、作者の独創性や、複製と原作の境界そのものだった。
借用は法的な争いと隣り合わせでもある。2023年、米国連邦最高裁は、写真家リン・ゴールドスミスが撮った歌手プリンスの肖像をもとにしたウォーホルの作品の商用利用をめぐり、ゴールドスミス側の主張を認めた。他人のイメージを使う創作がどこまで許されるかという問いは、生成AIの学習データをめぐる議論へと続いている。
スターテヴァントとマイク・ビドロの完璧な借用から、法廷に持ち込まれた問いまでをたどったのがアプロプリエーション・アートとはである。漫画のコマを借りたリキテンシュタインと、その借用の系譜はリキテンシュタインの『ドット』に詳しい。