ストリートアート(street art)は、壁や路面、標識、地下鉄など、美術館の外の公共空間に、許可の有無を問わず描かれたり貼られたりする美術の総称である。グラフィティと重なる部分が大きいが、文字を中心とするグラフィティに対し、図像やメッセージを通行人に向けて見せる表現を広く含む。
現代の起点とされるのは、1970年代のニューヨークで地下鉄の車両や壁を埋めたグラフィティである。若者たちはスプレー塗料で自分の名前を図案化したタグを競い合い、車両そのものが街を走る画面になった。1980年代に入ると、キース・ヘリングが地下鉄駅の空いた広告板にチョークで絵を描き、ジャン=ミシェル・バスキアも街に言葉を書きつけたのちに画廊へ進んでいる。
パリでは1981年ごろからブレック・ル・ラットが型紙で鼠の絵を吹き付け、短時間で同じ図像を繰り返せるステンシルの手法を広めた。これを受け継いだのが、1990年代に英国ブリストルから現れたバンクシーで、皮肉の効いた図像を一夜で残しては姿を消す。アメリカではシェパード・フェアリーが1989年にプロレスラーの顔を使ったステッカーを街に貼り始め、のちのOBEYのシリーズへと展開させた。
ストリートアートは、所有されず、いつ消されるかわからないことを前提にしている。器物損壊として取り締まられる一方で、作品が壁ごと切り取られて競売にかけられたり、自治体が観光資源として保護したりもする。誰のものか、どこからが表現でどこまでが落書きかという問いは、いまも決着していない。2024年にロンドン市内の警察の警備ボックスに描かれたバンクシーのピラニアが、博物館の収蔵品になったことは、その揺らぎをよく示している。
ブリストルの壁からオークション会場までバンクシーの歩みをたどったのがバンクシーの正体と功績で、警備ボックスごと博物館に入ったピラニアの絵はバンクシーのピラニア作品がロンドン博物館で永続展示へで伝えた。