アール・デコ(Art Deco)は、1910年代から1930年代にかけてフランスを起点に世界へ広がった、幾何学的な形と豪華な素材を組み合わせる装飾の様式である。アールデコとも表記される。
名前は、1925年にパリで開かれた現代装飾美術・産業美術国際博覧会の名称にある「装飾芸術(arts décoratifs)」を縮めたものだ。ただし当時この呼び名はなく、モデルヌ様式などと呼ばれていた。いまの名が広く通用するようになったのは、1966年にパリの装飾美術館で開かれた回顧展や、1968年に英国の批評家ベヴィス・ヒリアーが出した本からである。様式そのものは1925年より前からあり、1913年に開場したパリのシャンゼリゼ劇場がその早い例とされる。
特徴は、直線、ジグザグ、放射状の線、段状に積み上がる形といった幾何学のモチーフと、漆、象牙、黒檀、クロム、ガラスなどの素材にある。直前のアール・ヌーヴォーが植物の曲線を追ったのに対し、アール・デコは機械と速度の時代の輪郭を装飾に取り込んだ。キュビスムや未来派から、古代エジプトや中南米の古代美術まで、参照先は幅広い。
舞台は家具や宝飾から、建築とグラフィックへ広がる。ニューヨークでは1930年にクライスラー・ビルが、翌年にエンパイア・ステート・ビルが完成し、上へ行くほど段状に細る摩天楼がこの様式の代名詞になった。フランスではカッサンドルが、遠近を強調した構図と太い文字で客船や鉄道のポスターを描いた。日本では、1933年に東京・白金台に完成した旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)が代表例として知られる。
1930年代の後半になると、より簡素な流線形のデザインや、装飾を退けるモダニズムに主役を譲った。1960年代末の再評価以降は、高級感と懐古の記号として、映画やゲーム、ホテルの内装で繰り返し引用されている。
段状の摩天楼の姿を先に絵で示した建築画家についてはヒュー・フェリスのゴシック都市で、未来派の速度の表現がカッサンドルらの商業デザインへ受け継がれた流れは未来派と速度の美学で取り上げた。