カナダパビリオンがヤバくて草じゃなくて藍藻が増える。もうHUNTER×HUNTERかとおもたわ。
革新的なバイオデザインが描く未来の建築
2025年、建築とデザインの世界に革命的な変化をもたらす展示が、第19回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展のカナダパビリオンで公開されています。「ピコプランクトニクス(Picoplanktonics)」と名付けられたこのプロジェクトは、生きたシアノバクテリア(藍藻)を封入した世界最大級の3Dプリント構造体として、建築業界だけでなく、デザイン全般に大きな影響を与える可能性を秘めています。

生きた建築材料が実現する「再生デザイン」
ピコプランクトニクスは、建築家兼バイオデザイナーのアンドレア・シン・リン(Andrea Shin Ling)率いるリビングルーム・コレクティブ(Living Room Collective)によって設計されました。この革新的なプロジェクトの核心は、従来の建築材料とは根本的に異なる「生きた材料」の開発にあります。
プロジェクトで使用されているシアノバクテリア(Synechococcus PCC 7002)は、24億年前から地球に存在する最古の生命体の一つです。これらの微生物は光合成により大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を放出すると同時に、炭酸カルシウムなどの鉱物を生成します。この特性を活用することで、建築物自体が炭素を固定し、環境負荷を軽減する「再生型建築」の実現を目指しています。
ETHチューリッヒが開発した最先端バイオファブリケーション技術
この画期的なプロジェクトは、スイスのETHチューリッヒ大学で開発された世界初の建築スケール対応バイオファブリケーション・プラットフォームを使用して製造されています。マーク・ティビット教授率いる学際的研究チームは、4年間にわたる研究の成果として、生きたシアノバクテリアをハイドロゲル内に安定的に封入し、3Dプリント可能な材料を開発しました。
この技術の革新性は、「デュアル炭素隔離」システムにあります。通常の植物による炭素固定とは異なり、シアノバクテリアはバイオマス(有機物質)と鉱物の両方の形で炭素を貯蔵できます。実験では、材料1グラムあたり約26ミリグラムのCO2を400日間にわたって継続的に吸収することが確認されており、これは化学的な鉱物化プロセスと同等の効果を持っています。
ケアとメンテナンスが組み込まれた新しいデザインパラダイム
ピコプランクトニクスの最も特徴的な側面の一つは、「ケアと管理」がデザインの不可欠な要素として組み込まれていることです。カナダパビリオンは、構造物内の生きたシアノバクテリアが成長し、繁栄できるよう、十分な光、湿度、温度を提供するように特別に設計されています。
展示期間中、現場には専門の管理者が常駐し、構造物の世話を行っています。これにより、材料の成長、病気、死といったすべての段階が公開され、観客は生きた建築材料のライフサイクルを直接体験することができます。このアプローチは、従来の「完成品」としての建築物から、継続的な関与と世話を必要とする「生きた建築」への根本的なパラダイムシフトを示しています。
建築・デザイン業界への革命的インパクト
ピコプランクトニクスが建築・デザイン業界に与える影響は多岐にわたります。まず、建設業界の脱炭素化に向けた画期的なソリューションを提供する点が挙げられます。世界のCO2排出量が持続不可能な水準に達している現在、建築物自体が炭素を吸収・固定する材料の開発は、業界全体の環境負荷削減に大きく貢献する可能性があります。
また、この技術は従来の建築プロセスを根本的に変える可能性も持っています。生きた材料を使用することで、建築物は一度完成すれば終わりではなく、継続的に成長し、変化し、自己修復する能力を持つようになります。これは、メンテナンスコストの削減や建物の寿命延長につながる可能性があります。
デザインの新領域「バイオデザイン」の拡大
ピコプランクトニクスは、デザインの新しい分野である「バイオデザイン」の可能性を大きく広げています。生物学的プロセスと最新のデジタルファブリケーション技術を組み合わせることで、従来のデザインでは不可能だった機能性と持続可能性を兼ね備えた製品の開発が可能になります。
このアプローチは建築分野だけでなく、インテリアデザイン、プロダクトデザイン、さらにはファッションデザインにまで応用される可能性があります。デザイナーたちは今後、美的価値だけでなく、生態学的機能も考慮したデザインソリューションを開発することが求められるようになるでしょう。
産業界への波及効果と期待される変革
ピコプランクトニクスの成功は、様々な産業分野に波及効果をもたらすことが期待されています。建設業界では、従来のコンクリートや鋼材に代わる新たな建材として、生きた材料の商業化が進む可能性があります。実際、1キログラムのこの生体材料は最大350グラムのCO2を捕獲・隔離できるとされており、同量の従来コンクリートが排出する500グラムのCO2と比較して、大幅な環境負荷軽減効果が期待されます。
また、この技術の発展により、新たな職種の創出も予想されます。「生きた建築」の管理と保守を専門とする技術者や、バイオマテリアルの開発を手がける材料科学者など、従来の建築・デザイン業界にはなかった専門職が生まれる可能性があります。
教育とデザイン思考の変革
ピコプランクトニクスは、デザイン教育の分野にも大きな変化をもたらすでしょう。デザインスクールでは、従来の美学や機能性に加えて、生物学、材料科学、環境科学などの学際的な知識が必要になります。これにより、より包括的で持続可能なデザインアプローチを身につけた新世代のデザイナーが育成されることが期待されます。
また、「エコロジーファースト」の設計思想が主流となることで、デザインプロセス自体も変革されるでしょう。デザイナーは最初の段階から、製品やサービスが環境に与える影響を考慮し、自然システムとの協働を前提としたソリューションを開発することが求められるようになります。
課題と今後の展望
革新的なピコプランクトニクスですが、実用化に向けてはいくつかの課題も存在します。最大の課題は、生きた材料を使用することによる管理の複雑さです。温度、湿度、光量などの環境条件を継続的に監視・調整する必要があり、これには専門的な知識と技術が必要です。
また、スケーラビリティの問題も存在します。現在は実験段階であり、商業的な大量生産にどのように対応するかは今後の課題となっています。さらに、生きた材料の品質管理や安全性の確保、法的規制の整備なども、実用化に向けて解決すべき重要な問題です。
しかし、これらの課題にもかかわらず、ピコプランクトニクスが示す可能性は計り知れません。気候変動対策が急務となっている現在、建築物が環境負荷を軽減するだけでなく、積極的に環境修復に貢献するという概念は、業界全体の方向性を決定づける重要な指針となるでしょう。
持続可能な未来に向けた新たな可能性
ピコプランクトニクスは、人間と自然の協働による新しい建築・デザインアプローチを提示しています。このプロジェクトが目指すのは、地球を「搾取」するのではなく「修復」する空間の共創です。これは、従来の人間中心的なデザイン思想から、生態系全体の健康と持続可能性を優先する「再生デザイン」への根本的な転換を意味しています。
今後、ピコプランクトニクスの成功により、世界各地でさらなる生物学的建築プロジェクトが展開されることが期待されます。これにより、都市部における炭素隔離、大気質の改善、生物多様性の保全など、様々な環境問題の解決に向けた新たなソリューションが生まれる可能性があります。
ヴェネツィア・ビエンナーレで注目を集めるピコプランクトニクスは、単なる展示作品を超えて、建築・デザイン業界の未来を示す重要な指標となっています。この革新的なプロジェクトが切り開く新しい道筋は、私たちの生活空間と地球環境の関係を根本的に変える可能性を秘めており、今後の動向に大きな注目が集まっています。

Q&A
- ピコプランクトニクスとは具体的にどのような技術ですか?
- ピコプランクトニクスは、生きたシアノバクテリアをハイドロゲル内に封入し、3Dプリント技術で建築スケールの構造体を製造する革新的なバイオファブリケーション技術です。これらの微生物は光合成によりCO2を吸収し、バイオマスと鉱物の両方の形で炭素を固定します。
- この技術の環境への影響はどの程度ですか?
- 実験データによると、この材料1グラムあたり約26ミリグラムのCO2を400日間継続的に吸収できます。カナダパビリオンの最大構造物(高さ約3メートル)では、年間約18キログラムのCO2を固定でき、これは20年生の松の木と同等の炭素隔離能力を持っています。
- 実用化に向けた課題は何ですか?
- 主な課題は生きた材料の管理の複雑さです。温度、湿度、光量などの環境条件を継続的に監視・調整する必要があり、専門的な知識と技術が必要です。また、大量生産のスケーラビリティ、品質管理、安全性の確保、法的規制の整備なども重要な課題となっています。
- この技術は建築業界以外にも応用できますか?
- はい、バイオデザインのアプローチはインテリアデザイン、プロダクトデザイン、さらにはファッションデザインまで幅広い分野に応用可能です。生物学的機能と美的価値を両立させた新しいデザインソリューションの開発が期待されています。
- ピコプランクトニクスの展示はいつまで見ることができますか?
- 第19回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展のカナダパビリオンで、2025年5月10日から11月23日まで公開されています。展示期間中は現場の管理者が構造物の世話を行い、来場者は生きた建築材料のライフサイクルを直接体験できます。
参考文献
- 世界最大級の生きた3Dプリント構造体「ピコプランクトニクス」- TECTURE
- https://mag.tecture.jp/culture/20250525-picoplanktonics/
- A building material that lives and stores carbon – ETH Zurich
- https://ethz.ch/en/news-and-events/eth-news/news/2025/06/a-building-material-that-lives-and-stores-carbon.html
- Picoplanktonics Official Website
- https://www.picoplanktonics.com
- Canada Pavilion Presents Picoplanktonics – ArchDaily
- https://www.archdaily.com/1030289/canada-pavilion-presents-picoplanktonics-a-living-experiment-in-regenerative-architecture-at-the-2025-venice-biennale
- 3D printed biostructures capture carbon dioxide at Venice Biennale – designboom
- https://www.designboom.com/architecture/3d-printed-biostructures-live-cyanobacteria-capture-carbon-dioxide-air-venice-architecture-biennale-2025-canada-pavilion-interview-06-13-2025/
- Venice Biennale of Architecture: Canada’s participation in 2025 – Canada Council for the Arts
- https://canadacouncil.ca/initiatives/venice-biennale/2025



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