バーバラ・ヘプワース貴重彫刻、380万ポンド募金成功で英国保存決定

概要:国民の力で救われた貴重な彫刻作品

2025年8月、英国で芸術史に残る大きな出来事が起こりました。20世紀を代表する彫刻家バーバラ・ヘプワース(1903-1975)の貴重な作品「Sculpture with Colour (Oval Form) Pale Blue and Red」(1943年制作)が、市民による募金活動により英国内での永久保存が決定したのです。

この彫刻作品は2024年3月にクリスティーズ・ロンドンで355万ポンドで落札され、海外流出の危機にありましたが、英国政府が一時的な輸出禁止措置を設けました。その後、ヘプワース・ウェイクフィールド美術館とアートファンドが中心となって380万ポンドの募金活動を開始し、わずか2か月余りで目標を達成しました。

作品の歴史的価値と意義

この彫刻は、ヘプワースが第二次世界大戦中にコーンウォール州セント・アイヴスで制作した作品です。戦時下という困難な状況の中で生み出されたこの作品は、彼女のキャリアにおける重要な転換点を示しています。

木彫に色彩豊かな紐を組み合わせた手法は、ヘプワースの革新的な表現の先駆けとなりました。特に注目すべきは、この作品が1940年代に制作された数少ない木彫作品の一つであり、紐を使用した初期の主要作品でもあることです。

作品は1944年にコレクターのヘレン・サザーランドによって直接ヘプワースから購入され、その後80年間にわたって個人所有のまま、一般公開される機会がほとんどありませんでした。

募金活動の詳細と成功要因

380万ポンドという目標額は、以下のような内訳で達成されました:

  • 国営宝くじ遺産基金:189万ポンド
  • アートファンド:75万ポンド
  • 一般市民からの寄付:2,800件以上
  • 各種財団や個人寄付者からの支援

この募金活動には、アントニー・ゴームリー、アニッシュ・カプーア、レイチェル・ホワイトリードなど、現代を代表する芸術家たちも支援の声を上げました。

特筆すべきは、一般市民からの寄付が3ポンドから6桁の金額まで幅広く寄せられたことで、この作品への国民的な関心の高さを物語っています。

美術館での展示計画

作品はヘプワースの故郷であるウェスト・ヨークシャー州ウェイクフィールドのヘプワース・ウェイクフィールド美術館で永久展示されます。これは作品が制作されて以来、初めての継続的な一般公開となります。

美術館では、この作品の取得により1940年代のヘプワースの作品群に重要な欠落部分が補完され、彼女の創作活動の全貌をより完全に紹介できるようになります。

また、全英の他の美術館への貸し出しも計画されており、より多くの人々がこの貴重な作品に触れる機会が提供される予定です。

今後への影響と期待

この成功事例は、文化遺産保護における市民参加の重要性を示す画期的な出来事として注目されています。特に以下のような影響が期待されます:

文化遺産保護への意識向上

市民による積極的な募金参加は、文化財保護に対する国民意識の高まりを示しており、今後同様のケースでの成功例となる可能性があります。

美術館の社会的役割の再認識

公的な文化施設が地域コミュニティと連携して文化遺産を守る重要性が改めて認識され、美術館の社会的使命がより明確になりました。

国際的な文化財流出問題への対応

この事例は、グローバル化する美術市場において、各国が自国の文化遺産をいかに保護するかという課題に対する一つの解決策を示しています。

若い世代への文化教育効果

学校や教育機関がこの作品を活用することで、現代彫刻や抽象芸術への理解促進が期待されます。

まとめ

バーバラ・ヘプワースの「Sculpture with Colour (Oval Form) Pale Blue and Red」の救済成功は、単なる美術作品の保存を超えて、文化遺産を守る市民の力と、芸術が持つ社会的価値を改めて証明する出来事となりました。

この作品が英国内で永久保存されることにより、将来の研究者や芸術愛好家、そして一般の人々が、20世紀英国彫刻史の重要な一ページに直接触れることができるようになります。

Q&A

この彫刻作品の特徴は何ですか?
1943年に制作された木彫作品で、白く塗装された楕円形の本体に淡い青色の内部空間があり、多色の紐が張られています。ヘプワースの紐を使った初期の重要作品の一つです。
なぜこの作品は重要とされているのですか?
第二次世界大戦中に制作され、ヘプワースの創作活動における重要な転換点を示す作品です。また、1940年代の木彫作品は数が少なく、美術史的価値が非常に高いとされています。
募金活動にはどのような人々が参加しましたか?
アントニー・ゴームリーやアニッシュ・カプーアなどの著名な現代アーティストから、3ポンドの少額寄付をした市民まで、2,800件以上の幅広い支援がありました。
今後この作品はどこで見ることができますか?
ヘプワース・ウェイクフィールド美術館で永久展示されるほか、全英の他の美術館への貸し出しも予定されています。
類似の文化財保護活動は他にもありますか?
英国では2023年にジョシュア・レイノルズの肖像画で2,500万ポンドの募金成功例があり、このような市民参加型の文化財保護活動が増加傾向にあります。

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